
春が近づいてくると、必ず私の耳の奥にこだまするのが于武陵の「勧酒」の結句、
井伏鱒二氏の天才的訳詩です。
この盃を受けてくれ
どうぞなみなみつがせておくれ
花に嵐のたとえもあるぞ
さよならだけが人生だ
踊るような言葉の接続。メロディもリズムも詩の中にありますね。
さよなら、という単語は悲しみを連想させますが
芯にあるしっかりした明るさがバランスをとっていて、原文の漢詩からは
想像もつかないような風景まで見せてくれていると思います。
春の季節感をこんなふうに切り取れる言葉があるってことですね。
言葉のちからを信じている人間にとってこれほどのお手本はないです。
その盃のお酒はきっととてもおいしいのでしょうね。